UI/UXのUって誰?プロダクトに関わるのはエンドユーザーだけじゃない


今日は、いつもと趣向を変えて、UX Advent Calendarの担当日として書かせていただいています。そこで、少し自分の来歴も織り交ぜながら、UXという仕事について思うところを書こうと思います。

私は慶應のSFCで長くモバイル/ユビキタスのUI/UXを研究した後、頓智ドット株式会社にてセカイカメラとtabのUXを担当し、現在はフリービット株式会社にて製品およびウェブのUI/UXを担当しています。多くの活躍されているUXデザイナーの皆さんの中で僭越ですが、アカデミズムの立場で長くやってきたこと、またWebではなくアプリやハードのような製品に取り組んできたことから、そうしたちょっと変わった視点でお話ができれば、と思います。

UI/UXのテクノロジー製品ビジネスにおける位置付け

UI/UXに最初に興味を持ったのは、90年代の前半、中学生の頃でした。当時僕はMacを触り始めて、Macの雑誌などを読むようになり、その中でPC-98なども触っていたので、Windowsと比べたMacのUIの優位性というものを知りました。コンピューターが生活者に普及していく黎明期であり、大きな可能性を感じたので、これを仕事にしようと考えました。そして、その中でも、ソフトウェアやハードウェアなど様々なアプローチがあり得たと思いますが、僕にとっては人間がコンピューターでできることを規定するUIが、もっとも本質的な要素に思えました。

一方で、産業としてのコンピューターに目を向けると、Macはニッチな存在でした。(それは今でも変わりません。)Macと比べてUXが大きく劣る(少なくとも当時はそれが一般的な評価だった)Windowsが、Macよりも大きなシェアを持っている。最初はその理由が理解できませんでしたが、Windowsのプラットフォームとしての強み(ハードメーカーへのライセンスやアプリケーション開発者への充実した開発環境の提供、B2Bの販売チャネルの構築など)を理解してくると、UXが完璧とは言えないにせよ、利用できるソフトやハードのより幅広い選択肢を、競争圧力によってより低いコストで利用できるというメリットが浮かび上がってくる。そして、Appleの交渉のまずさで最初にWindowsにMacのルック&フィールをライセンスする契約を結んでしまったせいで、Macが勝つチャンスは永久に失われてしまいました。

この事実は、私のようにプロダクトのUXを生業にする人間に一つの示唆を与えます−−すなわち、UXの優位性は、必ずしもビジネスの優位性にならない場合があるということです。特に、オープンなつながりによって価値の生まれるIT産業では、クローズドな垂直統合によってよりよいUXを作ることができても、プラットフォームのエコシステムをうまく構築できなければ、高い付加価値を実現することができない。

Apple(とジョブズ)も、長い苦労を経てこの点を学んだのでしょう。ジョブズ復帰後のAppleで大成功を収めたiPodとiPhone/iPadは、いずれもiTunesとApp Storeという情報プラットフォームの構築に成功したことで、自社製品内に閉じたUXではなく、プラットフォーム全体として高い付加価値を実現することに成功し、PCの時代と比べてはるかに大きな成功を収めることができました。とはいえ、水平分業のAndroidのUXがキャッチアップしてきたことで、すでに市場シェアでは大きく逆転され、PCの時代と歴史は繰り返す、の様相を呈してきてはいますが。

ユーザーとは誰か

このように、ビジネスにおけるUXの位置付けを突き詰めていくと、当然ながらビジネスの最上流、「顧客は誰か」「どのような付加価値を提供するのか」という問いに立ち戻ることになります。sprmari0こと坂田さんが、最近Enterprise Architectureに言及するようになったのも、このような考え方からすると自然なことだと思っています。

そして、私のわずかばかりの経験の中でわかってきたことは、このそれぞれの問いに対して、第一印象とは異なる答えが適切であることが、多くあるということです。

例えば私達は、通常Webサービスに対してエンドユーザーとして接します。Googleで検索をしたり、楽天で商品を買ったり。自然と、事業者とエンドユーザーの1対1の関係にばかり目が行くことになります。しかし、事業サイドから見ていくと、Googleが収益化できたのは検索連動広告のビジネスモデルを発見したことによります。すると、Googleとユーザーの他に、広告主、オンラインマーケティング事業者、特にSEO事業者などのプレーヤーが関わってくることになります。楽天は、元々わかりやすくB2B2Cモデルで、収益源は出展する事業者です。AmazonやMicrosoftなども含め、ITのメジャーな事業者は、エンドユーザー以外のプレーヤーが関わってくることで収益化がなされる。ただし、エンドユーザーへのエンゲージメントが高くなければ全体のサイクルが回らない。ここにUXの役割がある、という構図です。

Appleが特異なのは、収益源が製品の売上に集中している点です。事業者とエンドユーザーの関係を軸に事業が構築されており、他のプレイヤー(例えばiTunesにコンテンツを配信する事業者や、アプリ開発者)は、Apple製品の付加価値を上げることには寄与しても、Appleの収益のへの貢献は大きくない。だからこそ、Appleのビジネスに取ってはすべての顧客接点のUXを最大化することが、そのまま事業の付加価値を最大化することになる。言い方を変えれば、このようにエンドユーザーに自ら真剣に向き合う事業構造だからこそ、エンドユーザーのUXが最適化される、最適化せざるを得ない、という事業構造だということです。

ここでわかるのは、プロダクト開発にあたって、誰もがApple型の、エンドユーザーのUXを最適化する事業構造を指向するのは誤りだということです。上に書いたように、IT事業の収益構造は多くの場合B2B2Cなど、エンドユーザー以外を巻き込んだ構造を取っている。そこでエンドユーザーだけに最適化してしまうと、エコシステム全体の付加価値がかえって下がってしまうことがある。上で書いた、PC市場におけるAppleの敗北はその典型例です。

自分の経験からいうと、この点が、セカイカメラをtabにリニューアルした際の最大のポイントとなりました。セカイカメラは、エンドユーザーにはとても驚きのあるユニークなUIを実現して、大きなアテンションを集めることに成功しました。一方で、セカイカメラは新しいメディアを作ることを目指していましたが、メディアとして考えるとコンテンツを発信する人や、そのコンテンツの中身になるターゲットなどのプレイヤーがいます。セカイカメラには、そのようなプレイヤーをうまく巻き込むメカニズムが欠けていました。結果、面白いコンテンツが流通せず、メディアとしてうまく回っていない状況でした。tabへのリニューアルにあたっては、エンドユーザーの抱えているユーザー課題を明確化するのと並行して、特定のロケーションで事業を行う事業者さん、および情報を発信したい人のモチベーションを考慮してサービスを設計しました。結果、セカイカメラと比べて、はるかに多くのコンテンツパートナーさんを獲得し、はるかに多くの情報発信がなされるようになりました。結果として、情報を見たいエンドユーザーの方にも、より付加価値の高いサービスに変わりました。それは、アクティブユーザー数などの向上に明確に現れました。

私がこのようなポイントに気付いたのは、まだ研究者だった頃に作った「おねだリスト」というシステムのアイデアからです。このシステムでは、アパレルショップの店頭で、複数の服を試着した際に、気に入ったけどその場では買わないアイテムを、試着した状態の画像とアイテム情報付きでオンラインカタログとして記録して、女性を主なターゲットとして彼氏や旦那に送りつけ、後でプレゼントしてもらうことができます。おねだリストにおいては、利用者本人はほしかったがお金や優先順位のために買わなかった服をもらえる可能性が出る、ショップは販売機会が増えて嬉しい、プレゼントする人はどんなもがほしいか、という情報が得られる、など、関わるプレイヤーの全てにメリットがあるという構造を作ることができました。唯一、アパレルとECの繋ぎ込みが重たかったので、当時アカデミシャンだった自分では実行できませんでした。今になって、ZOZOのスタートトゥデイさんのような事業者が、このような仕組みを実現しようとしていることには、必然性があると感じます。

おわりに:プランナー/クライアントとエンドユーザー以外に目を向けて見よう

ここで書いてきたことをまとめると、UXデザイナー、あるいはUXの責任を持つプロジェクトマネージャーの中では、気付いている方も多いとは思いますが、あらためてステークスホルダーを見直してみましょうということです。すると、自分のプロダクトのエコシステムにおいて、重要な付加価値をもたらしてくれるかもしれないのに、今まで見過ごされていたプレイヤー、あるいはひょっとしたら収益源になり得るプレイヤーが見つかるかもしれない。(広告だけに頼らなくてよくなるかも!)

このような、プレイヤーの整理を実現するための手法としては、クックパッドさんで開発されたEmotion Oriented Goal Settingsや、ステークスホルダーインタビューなどの手法が知られており、実務でも活用してきました。機会があれば、このブログでももっと詳しく解説しようと思いますし、今や業界の必読書となった感のある「THIS iS SERVICE DESIGN THINKING」や、EOGSについて触れられている「600万人の女性に支持されるクックパッドというビジネス」なども参考になります。

「優れたUXの実現には経営層のコミットが必要」と漠然といわれますが、ここまで書いてきたことを通して、それが精神論ではなく、「誰に」「どんな付加価値を」提供するべきかという事業構造によって、優れたUXの定義そのものが変わってくるということが、ご理解いただければ幸いです。