要件と設計:デザイナーへの発注にあたってお願いしたいこと

WEB DESIGN

(本記事は、システム開発においては一般的な内容を記しており、そうしたお仕事が専門でない事業者の方などを対象としています。)

アトモスは主にUX/UIのデザインのお仕事を受けており、また技術設計を担当させていただくことも往々にしてあります。特に最近のいくつかのプロジェクトで気になったことがあったので書いておきます。

エンドユーザー向けの製品というのは、往々にして企画される方もユーザーの一人であるということがあります。PCやスマホがこれだけ日々使われる中では、企画される側もデバイスやアプリについて多くの知識を持たれるようになりました。UXの重要性についてもそうした中で以前よりも理解されるようになってきました。

ただ、ユーザーとしての立場からは、見えないものがあるのも事実です。それは、きちんと機能するUIや、きちんとつながる無線ネットワーク、きちんと場所がわかるよう位置情報を使うことなどが、どれだけ難しいことか、ということです。

例えばiPhoneなどの製品は、なんでもなく動いているように見えるのが本当にすごいことです。世の中の多くの製品では、スペックシートには特定の機能を備えていると記しながら、ちゃんと使えない、つながらない、ちゃんと動かない、なんてことは当たり前に起こっています。UIにせよ、センサーなどにせよ、きちんと機能するようにするためには、ソフト/ハード/人間の認知や体のつくりなど、あらゆる知識を総動員して、要件を満たせるような「設計」を行う必要があります。それだけ難しい仕事だからこそ、専門性のあるデザイナーの存在意義があると思っています。

多くのプロジェクトで、企画書の中に企画者の方が書いたワイヤーフレームが含まれていることがあります。これはいわば製品のラフスケッチのようなもので、企画のイメージを伝えるためには役立ちます。しかし、そのワイヤーフレームがそのままデザインに用いられることはほぼありません。企画者の方が情報設計の専門知識がなければ、適切に機能する、機能の意図が伝わる、ちゃんとユーザービリティが担保されている、モバイルにもきちんと対応できるような設計を行うことは難しいです。結局カスタマージャーニーなどに立ち返って要件を再度洗い出す工程が必要となります。そのため、企画書のために網羅的なワイヤーフレームを作っていただいている場合などもあるのですが、これは無駄になってしまうことがあります。

ウェブやアプリなどは相対的に歴史の短い産業ですが、それでも製品は複雑であり、きちんと機能する製品を実現するためには専門知識に基づく「設計」が必要です。デザイナーに発注をいただく事業者や企画者の方にそうした設計についてアイデアや方向性をいただくのは大変ありがたいのですが、お願いしたいのは最終的な設計への落とし込みはデザイナーに委ねていただきたいということです。事業者や企画者の方にはむしろ、事業の戦略を明確にし、そのために必要なアウトカムや、お客様にどういったアクションをとっていただきたいか、直に接されているお客様のニーズを理解することなど、「要件」を明確化するところに注力していただければと思います。その上で、デザインに対して、その要件を十分に満たせるような設計になっているかということを、厳しく見ていただければと思います。そうした評価をサポートするために、ユーザビリティテストやKPI分析などの手法があります。

このように明確な「要件」と、その要件を達成するような「設計」という役割分担を意識していただけると、デザイナーへの業務の発注はより効果的なものになると考えます。

さよなら、インタフェース -脱「画面」の思考法

さよなら、インタフェース表紙

インタフェースデザイナーにとってはなかなか刺激的なタイトルのこの本を読んでみました。著者のゴールデン・クリシュナはアラン・クーパー(VisualBasicの開発者で「ペルソナ」の生みの親としても有名)のクーパーデザインに勤めた後、サムスンやザッポスでUXを担ってきたデザイナー。

著者のメッセージは3つ。

1)画面の中で考えるのではなく、行為の流れを考えよう

これは、カスタマージャーニーといったUXデザインの基本をおさえていればいい話ですね。スマートデバイスのマルチデバイス化やIoTによって、タッチポイントが分散化して、非デジタルのタッチポイントも含めた経験デザインをしないとならない状況が表れています。

2)テクノロジーによって人間に使いこなされる、人の手間を増やすのではなく減らすシステムを作ろう

マーク・ワイザーが提唱したユビキタス・コンピューティングの概念が紹介されているように、主にはセンサー情報などのコンテキスト情報を使ってユーザーが入力しないとならない情報を減らそうという話。昔は研究でしか議論されなかった概念が、スマホやIoTなど様々なセンシングが可能なデバイスが普及したおかげで、実務においても議論されるようになったのは感慨深いです。

3)一人一人に合わせる

パーソナライゼーションの話。特に目新しい話はなし。

ということで、個人的にはタイトルの割には目新しい話はありませんでした。著者のいう「インタフェース」の概念はワイヤーフレームで表現されるような「画面上のインタフェース」に限られており、マルチタッチポイントのカスタマージャーニーやセンサーによるコンテキスト情報の活用などは「インタフェース」には含まれないようです。エクスペリエンスデザイン/インタラクションデザインの実務家なら、今の世の中であればこれらを意識していないとしたらその方が問題かと思います。

ただ、実務家の中でIoTのためのUXデザインとは何かという検討が始まったというのが、このような本が出てくる背景なのだと思います。議論としては一回され尽くした内容なので、今後商用のプロダクトの中にこうした考え方がどう反映されてくるか(反映していくか)に興味を持っています。