2017雑感

今年も今日一日を残すのみとなりました。一年を通して本業がとても充実しており成果も上がったのですが、それ以外にも印象に残る出来事が色々あったので、まとめてみようと思います。

Instagramから今年の9枚


「IoTは三河屋さんである-IoTビジネスの教科書」出版

「IoTは三河屋さんである」表紙
今年韓国でも発刊させていただいた「人工知能は私たちを滅ぼすのか」に続き、マイナビ新書さんから二冊目の著書を出させていただきました。前作よりも、より今日のビジネスに直結した内容になっていますので、IoTにご興味のある方にはご一読いただければ幸いです。特に、IoT製品の主役はインターネットおよびサービスの側であり、エッジのハードウェア側の付加価値向上によるコストアップは時に事業の成功には足かせになりかねない、という理解が広まればと思っています。


iPhone X

iPhone XコンシューマーIT製品における2017年最大の話題といえば、iPhone Xでしょう。幸い発売日に入手することができ、以来メイン機として愛用してきました。果たしてiPhone Xはアップルがいうような「スマホの未来」になるのでしょうか。現在手に入れることのできる最良のスマートフォンというファーストインプレッションに変わりはありません。これまでの4.7インチ画面のiPhoneとあまり変わらなず片手で扱いやすい本体サイズに詰め込まれた、ほぼベゼルレスの対角5.8インチの有機ELディスプレイは、確かに素晴らしいエクスペリエンスを提供してくれます。またカメラも歴代のiPhoneの中では最高で、被写体や周囲の光環境によらず美しい写真を撮ってくれます。ただしベゼルレス/ボタンレスにこだわったことにより、コントロールセンターと通知センターが扱いにくくなったり、ランドスケープモードの操作性が十分考慮されておらず動画を全画面表示にするとセンサーハウジングで一部隠されてしまったり、キーボードが使いにくいなど、UIデザイン上の綻びが散見されます。またFaceIDは指紋認証と比べて遅い、マスクをしていると使えない、Apple Payの認証が行いにくくなったなど、果たして本当に改良と言えるのか疑問も残ります。これまでのアップル製品でも、デザインのパラダイムが大きく変わった最初の世代の製品には磨き残しも多いものです。X世代のiPhoneが7や8と同程度に洗練されるまでには、まだ2-3世代待たなくてはならないでしょう。


反脆弱性-不確実な世界を生き延びる唯一の考え方

「反脆弱性」表紙
今年読んだ本は色々あれど、日本で出版された本の中ではこれがベストでした。今日のネットワークで繋がる世界は、相互の複雑な干渉によって高い不確実性、カオス性に晒されています。著者のタレブの専門であるトレーディングはその代表例です。代表作である「ブラック・スワン」から本作まで、タレブは一貫して、破滅的なリスクを避けるだけではなく、積極的にチャンスに投企する姿勢を推奨します。例えば今年ビットコインに投資した人などはその好例でしょう。コントロール可能な範囲でリスクをとることは、インターネット後の世界を生きていく上で避けては通れないのです。


ドラクエ11

ドラクエ11オープニング画面僕は10以外は全部クリアしてるんですが、7以降はイマイチ好きになれず、本作もあまり期待せずに始めました。しかし、蓋を開けてみたらシナリオ、キャラクター、ボリューム、ゲームバランスなど、シリーズ最高ではないかと感じるレベルの傑作でした。特に、これまでと異なり今作のプレイヤーは初めから「勇者」という特権的な立場には立たせてもらえません。むしろこれまでになかったような逆境が何度も襲ってきます。そのような場面の中で、ある登場人物が主人公にこんな言葉をかけます。「勇者とは、決して諦めない者のことです!」体験者が能動的に行動するゲームというメディアの特性を最大限に活かした物語でした。

またインタラクションデザインの観点から凄みを感じたのが、PS4/3DS(3D)、3DS(2Dドット絵)の3種類の全く異なる表現で同時リリースしたこと。マップデザインやバランス調整は実質3本のゲームを開発する手間がかかったはずです。本作はあらゆる意味で日本の国民的ゲームとしてのドラクエの集大成的な作品でした。


2017年はどんな年だったか

2017年は個人的にも公私ともに充実した年でした。IT産業を見ても、AI、IoT、xR、暗号通貨に代表されるような新しいトレンドが具体的な形になって現れてきた一年でもありました。それは、それらのテクノロジーが多くの人にとって体験できる形になってきたためだと思っています。今年は、これまでで最も自分自身がそうした体験の実現に関われた年だったのが何より嬉しいことです。来年も引き続き素晴らしい体験のプロダクトを作っていきたいと思います。


おまけ:夏休み@ハワイ

夏はお休みをいただいてオアフに行っていました。ダイヤモンドヘッドではハワイの大地に、サンドバーでは海に、ノースショアでは虹とサンセットに触れることができました。都会に暮らしていると忘れてしまう自分と地球との繋がりを取り戻せたように感じました。

ダイヤモンドヘッド
ダイヤモンドヘッド
サンドバー
サンドバー
ノースショアの虹
ノースショアの虹
ワイキキのサンセット
ワイキキのサンセット

IA/UXプラクティス:実務家が実務家のために書いたUXの教科書の決定版

ネットイヤーの坂本貴史さんは日本のWeb業界における情報アーキテクト(IA)の先導的存在でした。僕も常々坂本さんのブログbookslopeで勉強させていただいています。また坂本さんは2011年に刊行されたIAの教科書「IAシンキング」でも知られています。

この5年間でWebのランドスケープは随分様変わりしました。最大の変化は、タッチポイントのデバイスとしてモバイルが主流になったことです。結果としてのアプリの広まりやタッチポイントの多様化などに伴い、UXデザインやサービスデザインへの関心も高まってきました。私がUXデザイン事業を立ち上げたのものそうした流れの中でした。

こうした変化に対して、少なくとも国内においては、個々のデザイナーが実務のプロセスの試行錯誤を行ってきました。世界を見ても、モバイルの時代のUXデザインの方法論を体系だってまとめたものはほとんど見当たりません。

坂本さんが今回出版された「IA/UXプラクティス モバイル情報アーキテクチャとUXデザイン」は、モバイル時代のUXデザインの教科書として、決定版といってよいものです。実務家の視点から書かれており、実務に関わるあらゆる人にとって読む価値があります。特に、こうした仕事に新しく就く人にとっては最適な教科書だと言えます。

ここから先は、本書の章別にコメントをしていきます。

1 UXデザインのとらえ方

UXそのもの、およびそのデザインはいずれも掴みにくい概念であり、人によって定義が異なったりします。本書ではまず、ISO-9241-210やUX White PaperやPeter MorvilleのUXハニカムなどの基本的な定義を参照しつつ、IA、ユーザビリティ、HCD、リーンといった周辺領域との関係を整理していきます。

2 モバイルのUXデザイン

ここでは、デスクトップとの利用状況の違いからモバイルのデザインにおける基本的な注意点、タッチ/ジェスチャー、解像度とレスポンシブなど、モバイル向けのデザインに必要となる基礎的な知識をまとめています。

3 モバイルにおける情報アーキテクチャ

ここはIAとしての坂本さんの本領発揮といったところ。情報構造に関するパターンと、表示方法(ナビゲーション)のパターンとを紹介するとともに、それらの関係を整理していきます。

一点気になったのが、情報構造としての階層型とマトリョーシカ型の差異がわかりにくかったこと。これはユーザーが実際に階層のドリルダウンを行うインタラクションの中で、必ずしも深掘りするだけでなく、より上位の浅い階層に戻る場合もあるかどうかの違い、と読み取れましたが、情報構造自体についてどれだけの違いがあるのか、いまいちイメージできませんでした。(教えて坂本さん!)

あとモバイルのナビゲーションは本書にも記されている通りアニメーションを使ったダイナミックなものが増えているので、紙の本ですべてを理解するのは難しいです。本書ではサンプルのリンクも数多く示されているので、それらを参照しながら読み進める必要があります。

4 問題解決としての情報アーキテクチャ

ここでは、情報アーキテクチャ設計のより具体的な進め方を示しており、コンテンツ構造設計や検索/ナビゲーション、プロトタイピング、デザイン原則やデザイン言語の利用法について紹介しています。具体的なツールや方法論が詳しく紹介されています。

5 UXジャーニーマップと可視化

様々なタッチポイントを含むモバイル時代のUXデザインは、画面遷移図の中に収まらなくなってきています。結果として、カスタマージャーニーマップやストーリーマッピングと呼ばれる、よりユーザー視点で抽象化されたユーザー体験の可視化手法が用いられるようになってきました。この数年間自分が事業会社やアトモスでUXデザインを行う中でも、ジャーニーマップを設計の中心に用いてきました。

IAシンキングと本書の差分として最も大きい点の一つが、このジャーニーマップについて詳細に紹介していることです。特に、繰り返し強調されるのが、仮説を整理する/問題を発見する/問題への解決策を見つけるなど、具体的な目的を設定してジャーニーマップを作ることの重要性です。ジャーニーマップがともすれば作って満足してしまって終わりになってしまうことは実際によく起こることなので、本書ではこの点が繰り返し強調されています。

Appendix

本書の残りの部分では、GUILDの深津さんとのアプリのUIデザインについての掘り下げたディスカッション、またゼネラルアサヒの稲本さんによるECサイトのLPパターンについて、グッドパッチの村越さんが事業会社におけるUXデザインの取り組みについて書いています(この部分は明言されていませんが村越さんのグリーでのご経験に基づいていると思われます)。

次いで、坂本さん自身が開発中のジャーニーマップ作成ツールUX Recipeについての紹介があります。Webで、あるいはモバイルでのエスのグラフィ調査などから簡単にジャーニーマップを作成し、企画書などに貼り付けるアウトプットを簡単に作れるツールだということで、自分でも試してみようと思っています。

まとめ

このようにモバイル時代のUXデザインについて、体系だってまとめるとともに、実務レベルでの方法論や注意点をまとめた、稀有な本となっています。こうした実務を行っている人なら、多かれ少なかれ本書で紹介されているような方法論を用いているでしょうから、本書を通して知識の再整理を行うことができます。また、これからUXデザインの仕事に就く人であれば、本書を通して仕事の流れや必要なツールについて一通りの知識を身につけることができるでしょう。

日本のUXデザインの業界において、待望されていた一冊ということができます。

映画「スティーブ・ジョブズ」

映画「スティーブ・ジョブズ」
スティーブ・ジョブズの新しい伝記映画が公開されたので、観に行きました。

以前にアシュトン・カッチャーがジョブズを演じた映画が公開されています。今回は途中ジョブズにクリスチャン・ベールがキャスティングされていましたが降板し、結局マイケル・ファスベンダーが演じました。その他脚本が「ソーシャル・ネットワーク」のアーロン・ソーキン、監督が「スラムドッグ・ミリオネア」のダニー・ボイルという強力な布陣です。

マッキントッシュ、NeXT Cube、iMacという3つの歴史的な製品の発表を舞台に、ジョブズのビジネスマンとして、そして婚外子のリサの父親としてという2つの側面を描いています。 “映画「スティーブ・ジョブズ」” の続きを読む

シャオミ 爆買いを生む戦略

シャオミ 爆買いを生む戦略 表紙

シャープの経営再建にあたって、日本の官民ファンドと、台湾のフォックスコンとの綱引きが行われていましたが、どうやらフォックスコンの方が出資額などで優位に立っているようです。同じタイミングで、東芝が7000億円の赤字を発表しました。日本の電機メーカーが世界をリードしていた時代は、過去のものとなりつつあります。

一方で、台湾や中国の製造業に対して、ともするとまだ一段劣るというイメージを持っている方もいます。ところが、スマートフォンに限ってもファーウェイやシャオミのようなメーカーが躍進を遂げています。ファーウェイについてはグーグルのNexusのハイエンドである6Pの開発を担当しています。国内でもSIMフリー端末で高い人気を博しており、都心の電車の中でも普通に見かけます。

さらに注目すべきは、シャオミです。2010年に設立されたベンチャーが、2015年を通して中国で最も販売台数の多いスマホメーカーとなり、世界でもサムスン、アップル、ファーウェイに次ぎ、レノボとほぼ並んで5位につけています。2012年ごろからその存在は噂になっていましたが、あっという間にこれだけの地位を築きました。

これまで、アプリやウェブサービスのようなソフトウェアであれば、このような急成長はありました。しかしシャオミの凄さは、ハードウェアの事業でソフトウェア事業のような急成長を遂げたことです。

シャオミはいったいどうやってこれだけの急成長を実現したのでしょうか。創業メンバーの一人であり、デザインやオンラインマーケティングを担当する黎万強氏が、自らそのプロセスとその背後にある考え方を、「シャオミ 爆買いを生む戦略」という本に綴っています。 “シャオミ 爆買いを生む戦略” の続きを読む

農業からイノベーションとアントレプレナーシップの本質を考える

今日、農業経営の専門学校である日本農業経営大学校で、松尾和典先生にお招きいただき、「アントレプレナー論」で講義をしました。「事業創造のための顧客体験デザイン」と題して、UXデザインの取り組みについてお話をしました。またカスタマージャーニーマップを作るワークショップを実施し、サービスデザインを体験してもらいました。

グループワークの様子

グループワーク発表の様子

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凛女のススメ

凛女のススメ 表紙

(著書のお一人である荻原実紀さんからご献本いただきました。)

かつて、ウーマンリブという運動がありました。男女の役割分担、もっといえば女性の担う役割が限られていた中で、公民権運動の流れを受けて男女の社会的機会の均等を求めたものです。日本においても、男女機会雇用均等法の成立につながり、女性のキャリアの可能性は大きく広がりました。ただ当初の運動は、女性が男性と同等になるという意識が強く、たとえばキャリアウーマンのスタイルにしても80年代のパッド入りショルダーに代表されるように肩肘の張った、あたかも男性そのものになることを目指すものでした。

今でも国内の上場企業の役員に占める女性の割合はわずか2.9%(日経新聞調べ)と、やはりキャリア形成には性差による不平等があるのは厳然たる事実です。一方では、ウーマンリブの時代から二世代ほどが経過し、女性のキャリアは男性から勝ち取るものという言ってしまえば競合的なものと捉えるのではなくなってきたように思います。結婚や出産や美容のような女性のライフスタイルもポジティブに受け入れながら、うまくキャリアとのバランスを取っていく、そんなしなやかさを持った素敵な女性を、身の周りにも少なからず見かけるように思います。

本書は、そんな前向きかつ自立したキャリアを育んできた女性を「凛女」と名付け、そんな凛女20名からなる「凛女推進委員会」が、凛女を目指す人へ向けて、キャリアから結婚、子育て、美容や健康、はてはお金のことまで、専門的な知見と個人的な経験との両方からつづった一冊です。

執筆者の一人であり友人でもある感性デザインコンサルティングCOTOVIA代表の荻原実紀さんは、大手事務所から独立して自らのデザイン事務所と、事業会社をもう一社経営しながら、趣味のオペラにも熱心に取り組まれ、最近は宇和島伊達家の当主でいらっしゃる伊達宗信さんとご結婚され、ご夫婦で宇和島の文化の保存と継承にも取り組まれています。まさに凛女そのものと言っていい方です。

僕はもちろん男性なわけですが、妻はフルタイムで働いており、それぞれの仕事を精いっぱいがんばりながら、家のことなどもなんとか分担しながらやっています。それははっきりいって簡単ではなく、正直割り切って役割分担をしてしまえば楽だと思うこともあります。それでも、妻には自分のキャリアを持っていてほしいと思いますし、自分は自分で自分の生活のことをやっていると、それが実は生活者のことを肌で理解できるようになるため、自分の仕事にもポジティブな影響を与えていると思います。

キャリアも充実させながら、女性としての生活も楽しむ。そんなステキな凛女が増えれば、世の中はもっと明るくなるはず。特に、今後少子化によって働き手が減り、移民の受け入れの政治的なコストも高いと考えられる日本では、女性のキャリアアップが、経済の活性化の面でも必要性を増しています。本書は女性のみなさんには広く受け入れられると思いますが(実際アマゾンで3カテゴリーでベストセラー1位になったそうです!)、男性のみなさんも、パートナーや仕事仲間の女性がもっと輝けるように何ができるかのヒントが得られるでしょう。

人工知能は人類を滅ぼすか-「人工知能 人類最悪にして最後の発明」

人工知能 人類最悪にして最後の発明 表紙

ダイヤモンド社様よりご献本いただきました。

この数年の人工知能の発展は目を見張るものがあります。Googleの新しいPhotoサービスなどでも機械学習による内容の認識の精度は、少し怖くなるくらいです。このまま人工知能が進化を続ければ、いつか人間を上回るくらい賢くなり、人類の敵になるようなこともあるのではないか。そんな懸念は長らくSFの話だと思われてきましたが、現実的な脅威としての検討が必要になりつつあります。

筆者は、人工知能の専門家ではなくドキュメンタリー映画の監督ですが、シンギュラリティー論で知られるレイ・カーツワイル、MITの人工知能研究所長を勤めたロドニー・ブルックス、「2001年宇宙の旅」のアーサー・C・クラークらにインタビューするうちに、AIが一般的に考えられているよりも急速に人間を超えるほど進化すると思うようになります。同時に、そうして進化した人工知能が、私たち自身のように人間のためになるよう振る舞うのは、私たちが物事を擬人化してしまう希望的観測でしかないと主張します。

筆者が特に強調するのは、人工知能が人間と同等(Artificial general Intelligence)になった瞬間に、人工知能は自らをより賢く再設計できるようになる。しかも、そのような進化を人間と異なり即座に行うことができるため、あっという間に人間とは桁違いに賢くなっていってしまう。これはカーツワイルらがシンギュラリティー論でも主張している論点です。そのような超知能(Artificial Super Intelligence)は、人間がアリのことを気にかけないように、人間のことは気にかけないだろうと述べます。結果、高い確率でASIは人類を滅ぼすことになるだろうと。

筆者は、同様の問題意識を持った個人や団体との対話を通じて、このような危機意識を確信に変えるとともに、人工知能が人類の敵にならないように取れる方法を探っていきます。

筆者の抱くこのような危機感は、決して杞憂とはいいきれません。ビル・ゲイツ、イーロン・マスク、ビル・ジョイのような先端技術に造詣の深い専門家が、同様の懸念を表明しています。それくらい、近年の人工知能の進化が飛躍的なものだという点は、僕も同感です。

一方で、筆者は技術のバックグランドではないため、様々な専門家の話を聞きそうした人々の論文や著述を読み込んでいるものの、技術のディテールについての記述はあまりなく、その点が人工知能技術の現状についてのリアリティを感じにくくしています。

公開されている人工知能システムやロボットは、パターン認識に基づく行動については高い性能を発揮するようになっているものの、状況に応じた自律的な判断を行ったり自ら目的を設定するまでには至っていません。筆者が危惧するような、自分を自律的に設計し直すほど高度な知能とは、まだ大きな開きがあります。もちろん、筆者やカーツワイルが主張するように、指数関数的に性能向上するITに支えられて人工知能技術が同じペースで進化することで、短期間(10〜20年程度?)にそのようなAGIにたどり着く可能性はあります。

人工知能にかかわる人や、興味のある人であれば、その危険性についてきちんと考えておくのは必要なことだと思います。本書は、そのような議論への、優れた入り口を提供してくれます。

スマートPCとしての新しいMacBookレビュー

新しいMacBook

MacBook、ようやく入手できました。1.1GHz、256GB、USキーボードのスペースグレイ。Apple Store銀座にて日曜に店頭在庫ありました。3日ほど使っています。

発表された時の印象通り、これは「スマートPC」。フル機能のMacの機能を、タブレットやスマホのような使い心地で使えます。これはデスクでずっと使うPCじゃありません。電源は持ち歩かない。必要な時にさっと取り出してさっと使う。

こういう使い方だから、スマートデバイスのようにポートは一つでかまわない。そもそも周辺機器をケーブルでつなぐようなことはしない。充電は家に帰ってからすればいい。

キータッチは浅いので押し込むのではなく撫でるように打つ。それでもタブレットのソフトウェアキーボードよりはずっと快適。ずっと使ってると疲れそうですが。

データもローカルには置かない。できるだけクラウドに置いて、ローカルはキャッシュとして使う。そうすれば、256GBもあれば十分。

Retinaで12インチの画面は色鮮やかで視野角も広くてゴージャス。トラックパッドは仮想のクリックなのにまったくこれまでと違和感なく使える。むしろ押す場所を選ばないのでミスが減って快適。

つまり、これはネットブックの完成形。クラウド+スマートデバイスの時代に、仕事の道具としてのPCのあるべき姿を指し示す北極星のような存在です。

WWDCでは、iPadのマルチウィンドウ、ソフトキーボードのトラックパッド機能、外付けキーボードのサポート強化など、Mac OSとiOSの操作性のさらなる統一が進められていました。そう遠くない将来には、PCとスマートデバイスの垣根はなくなり、普通の人が使う仕事の道具はこのようなスマートPCが主流になると考えます。

Appleはテクノロジー企業ではなくなったのか

Apple Watchを入手してから3週間ほどが経ちました。通知やリモコンはまあ便利ですが、なくても困るものではない。前から使っているAndroid Wear端末とできることに大きな違いはありません。

Apple Watch

ですが、大きな違いとしては、今のところほぼ毎日着けて出かけています。何が違うのかといえば、やはりデザインという答えになります。一番安価なSportモデルのブラックを使っていますが、オンにもオフにも違和感がない。またスポーツバンドの着け心地はよく、心配した暑い日もバンド全体が密着しないので大丈夫でした。

去年一年間で売れたAndroid Wear端末の台数は72万台と言われているのに対し、Apple Watchは予約が230万台と推測され、通年で1000万台を超えるのは確実なようです(いずれもKGI証券による推定)。

ヴィトンのバッグとiPhone

日本人は世界で一番Apple製品が好きなようで、iPhoneのシェアは世界で最高です。原宿の女子高生100人に聞いたら「Androidを使うのは恥ずかしい」空気があるくらいだなんて記事もありました。

この話を聞くと、かつて日本でヴィトンのバッグが大流行して、日本では女子高生までヴィトンのバッグを持ち歩いていると海外からあきれられたのを思い起こさせます。今やApple製品は、かつてのヴィトンのような位置付けのようです。

ヴィトンのバッグを持った女子高生

これは偶然ではなく、Appleは意図的に自らを高級ブランド品に位置付けようとしているようです。例えばバーバリーやサンローランといったファッションブランドのCEO経験者を経営陣に招聘しています。また、著名なインダストリアル・デザイナーのマーク・ニューソンをデザイングループに迎え、ヒューマンインターフェースの責任者アラン・ダイは広告とファッション業界の出身とのこと。新しいMacBookは機能をそぎ落とし、性能も他製品と比べて低いが、3色から選ぶことができ、価格は高めです。

AppleとIT産業はどこへ向かうのか

Appleはどこへ向かっていくのでしょうか。昔から、Apple製品はデザインが良く、高めで、高級品というイメージでした。しかし同時に新しいテクノロジーでイノベーションをもたらし、また優れたユーザビリティを誇っていました。

ここへ来て、そのバランスは変わってきている印象を持ちます。最近のApple製品で、薄く/軽くなった以外のテクノロジーのイノベーションはなんでしょう。また、Mac OSとiOSの中心的な開発者だったスコット・フォースタールが辞め、アラン・ダイがUIの責任者になったiOS 7以降、ユーザビリティの観点からはむしろ低下しています(ニールセン・ノーマングループによるiOS7のユーザビリティ評価)。その間にAndroidは劇的に追いついてきました。

その結果、Appleのビジネスがどうなったかというと、iPhoneを中心にMacやApple Watchも高いセールスを記録し、絶好調。資本主義の歴史の中のあらゆる企業で最高の業績を挙げています。

これは、ITが成熟産業になってきたことを示しているのかもしれません。

スマートデバイスによってコンピューターはついに誰もが使うものになりました。ウェアラブルやスマートホームなど、コンピューターは日常空間に入り込むものになってきました。コンピューターとしての機能やユーザビリティにはもう大きな差がつかなくなっている。むしろ、ファッション性やブランド力の差が大きくなっている。デザインへのアプローチとしては、UXデザインというよりは従来型のインダストリアルデザインやクリエイティブデザインの重要性が高まっています。

個人的には、もっとテクノロジーで生活が変わるようなイノベーションが起こるのを見てみたいし、そのために優れたユーザー体験やユーザビリティを追求したい。Appleはその最大の担い手でしたが、その向かっている先はちょっと違うもののようです。

融けるデザイン

SFCの安村研で長く一緒に研究をした渡邊恵太君のデザイン論の本「融けるデザイン」が出ました。恵太君(もう立派な明治大学の先生ですが、こっちは大学時代の感覚のままなので、恵太君と呼ばせて!)は在学中から人間の認知や行動の理解に基づく数々の面白いUIデザインを作ってきていました。本書は2015年時点でのその活動や思考をまとめるような内容となっています。 “融けるデザイン” の続きを読む