シャオミ 爆買いを生む戦略


シャオミ 爆買いを生む戦略 表紙

シャープの経営再建にあたって、日本の官民ファンドと、台湾のフォックスコンとの綱引きが行われていましたが、どうやらフォックスコンの方が出資額などで優位に立っているようです。同じタイミングで、東芝が7000億円の赤字を発表しました。日本の電機メーカーが世界をリードしていた時代は、過去のものとなりつつあります。

一方で、台湾や中国の製造業に対して、ともするとまだ一段劣るというイメージを持っている方もいます。ところが、スマートフォンに限ってもファーウェイやシャオミのようなメーカーが躍進を遂げています。ファーウェイについてはグーグルのNexusのハイエンドである6Pの開発を担当しています。国内でもSIMフリー端末で高い人気を博しており、都心の電車の中でも普通に見かけます。

さらに注目すべきは、シャオミです。2010年に設立されたベンチャーが、2015年を通して中国で最も販売台数の多いスマホメーカーとなり、世界でもサムスン、アップル、ファーウェイに次ぎ、レノボとほぼ並んで5位につけています。2012年ごろからその存在は噂になっていましたが、あっという間にこれだけの地位を築きました。

これまで、アプリやウェブサービスのようなソフトウェアであれば、このような急成長はありました。しかしシャオミの凄さは、ハードウェアの事業でソフトウェア事業のような急成長を遂げたことです。

シャオミはいったいどうやってこれだけの急成長を実現したのでしょうか。創業メンバーの一人であり、デザインやオンラインマーケティングを担当する黎万強氏が、自らそのプロセスとその背後にある考え方を、「シャオミ 爆買いを生む戦略」という本に綴っています。

シャオミが見せた「マーケティングの未来」

私はこの本を読んで、痛烈な敗北感を感じました。その感じたことを説明することが、そのままシャオミの凄さを伝えることになると思います。

消費者向けのマーケティング活動は、歴史の中でその姿を変えてきました。製品の機能や性能が主な差別化だった時代には、それらをアピールすることが何より重要でした。しかし20世紀の後半には、機能や性能での差別化の幅が小さくなり、変わって製品を取り巻く広告やブランドなどの情報によって消費者の欲望を喚起する、ボードリヤールが「シミュラークル」と論じたような状況が出現しました。

ですが、インターネットの登場によって、二つの大きな変化が起こりました。

まず、情報やコンテンツが溢れるようになったことで、それらの価値は大きく下がりました。その結果、情報の中身以上に、情報へのアクセスも含めた「体験」の質が問われるようになってきました。例えばiPodやiPhoneに代表されるようなアップルの大成功は、製品自体とその周辺のタッチポイントをも含む優れた「体験」によるものであることが典型的な例です。このような背景から、UXデザインが注目されるようになり、私自身も取り組んでいます。

一方、著者がそれ以上に大きな変化だと述べるのが、事業活動に消費者が能動的に参加するようになっていることです。シャオミが特徴的なのは、製品開発から販売、広報、サポートなど、事業活動の全てにおいて、ユーザーの直接/間接の参加を促していることです。その結果、ソフトウェアのUIやUXなどをはじめとして製品の質は向上します。加えて、そうしたユーザーは自分が積極的に関わったことで、シャオミという企業とその製品への愛着を深めていきます。

シャオミの成功にあたっては、このように事業活動へのユーザーの参加を促すことで、製品の改善とファンの育成が相互作用し、雪だるま式にその人気が高まったわけです。著者はもともとデザイナーで、インタフェースデザインやUXを専門にしているそうです。ですが、著者らがシャオミで成し遂げたことは、私たちがUX/体験のデザインと呼んでいるパラダイムの、さらに先を行くものです。

シャオミのやっていることは、ユーザー参加型の製品開発や、ユーザーを製品を広めるアンバサダーにするアンバサダーマーケティングなど、理論としてはこれまでに提唱されてきたものが多いです。実際の事業でも、部分的には実施されてきました。しかしこれらを事業のコアに位置付けて全面的に取り入れ、結果これほど大きな成功を収めた企業を私はシャオミ以外には知りません。

シャオミの課題

シャオミに対しては批判も多くあります。

特に大きいものとしては、ハードもソフトもアップル製品の模倣であり、オリジナリティがないというものです。これはある面では当を得た批判です。スマホ以外でも、日本のバルミューダの空気清浄機の模倣品なども売られています。しかもこの空気清浄機の開発を担当したのは、なんと元バルミューダの技術部長だった人物だというのです。

しかし、一方では製品だけしか見ていない批判であり、それでは無数にあるiPhoneの模倣メーカーと比較して、シャオミだけがなぜこれだけの成功を収めたのかがわからなくなります。シャオミから学ぶべきは、そのハードやソフトの製品自体というより、その過程でユーザーを巻き込むプロセスの方です。

また事業という面では、スマートフォン市場そのものの頭打ちによってシャオミの事業も踊り場を迎えています。2015年は中国で出荷台数1位になったものの、販売計画に示していた1億台には3000万台届かない7000万台でした。(とはいえすごい数字ですけどね!)これは、ファーウェイの端末の伸びによるものです。実際Nexus 6PやMate Sといったファーウェイの最近の端末の完成度は素晴らしく、シャオミと違ってオリジナリティがありながらiPhoneに迫るほどです。

このようにシャオミの事業には課題も多々あります。しかしながら、ハードウェアのベンチャーとして、わずか5年でこれだけの成長を遂げた例は過去に例がなく、またその背景にあるマーケティングは、UXデザインの先にあるパラダイムを示すものです。

UXやデジタルマーケティングに関わるあらゆる人は、この本から学ぶことがあると思うので、一読をおすすめします。