農業からイノベーションとアントレプレナーシップの本質を考える


今日、農業経営の専門学校である日本農業経営大学校で、松尾和典先生にお招きいただき、「アントレプレナー論」で講義をしました。「事業創造のための顧客体験デザイン」と題して、UXデザインの取り組みについてお話をしました。またカスタマージャーニーマップを作るワークショップを実施し、サービスデザインを体験してもらいました。

グループワークの様子

グループワーク発表の様子

農業に求められるようになった経営マインド

農業と経営、農業とUXデザイン。いずれも一見不思議な取り合わせに見えるかもしれません。しかし、農業は今もっとも大きな変化にさらされている産業の一つです。安倍政権は農協改革やTPP締結などの政策を積極的に推進しています。農業従事者は国際競争の荒波に自らの創意工夫で立ち向かうことを求められています。

日本農業経営大学校は、そんな事業環境の中で、農作物や畜産物の生産という観点にとどまらず、農業におけるイノベーションをリードする経営人材を育成するという野心的な取り組みを行っている学校です。松尾先生も、経営コンサルティングなどのキャリアを積んでこられ、外の視点から農業経営者を育てられています。

日本の農業は、その土地の生産性の高さにも関わらず、労働生産性の高さが長らく指摘されてきました。端的に言えば、農家/畜産家は零細事業者がほとんどで、保護政策に守られた中で、流通をJAが、販売を小売業者担って事業が行われてきました。しかしこれからはそうはいきません。顧客ニーズを満たすような商品提案や、マーケティングを行うため、資源を集約して効率的に活用する経営が求められるようになってきます。

ドラッカーの「イノベーションと企業家精神」

たまたまですが、このタイミングであの「もしドラ」の続編、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読んだら」を読んでいました。ついでに「イノベーションと企業家精神」も読み返していました。

ドラッカーは冒頭で、アントレプレナーシップ(企業家精神)について、フランスでナポレオンおよびその後の時代に活躍した経済学者セイの言葉を引用します。

企業家は、経済的な資源を生産性が低いところから高いところへ、収益が小さなところから大きなところへ移す

アントレプレナーシップはもともと、同じ資源を投下しながら、より高い生産性を実現するということに、その起源があったのです。これは経営そのものの本質であると言えるでしょう。

経営の両輪としてのイノベーションとマーケティング

ドラッカーはよく知られている通り、マネジメントはマーケティングとイノベーションという両輪によってなされると説きました。

マーケティングとは何か?ドラッカーの有名な言葉に、

企業の目的とは、顧客の創造である

というものがあります。顧客のことを知り、そのニーズを満たすことを起点に事業の全てを組み立てる。その結果として、顧客を創り出すことが、経営のゴールであると。これがドラッカーのいうマーケティングです。

そしてイノベーションとは何か?ドラッカーが述べるのは、経営環境というものは絶えざる変化が必然である。それを脅威と捉えるのでなく、新たな顧客を作り出す機会として活用するのがイノベーションであると。ピンチはチャンス、ということですね。

農業についても、今起きている変化を脅威と捉えて拒絶したりするのではなく、生産性を高めるような変化を起こす好機と捉えればよいのです。

なぜ今UXデザインが求められるのか

私はこうしたドラッカーの考え方を今の世の中に当てはめると、なぜ今UXデザインが求められるようになったかがにわかると思います。

インターネットやソーシャルメディアなどのインタラクティブなメディアの発達は、一方的な情報の下で受け身に消費を行うのではなく、能動的に情報を検索し取捨選択しまた自ら情報を発信するような、トフラーのいう「プロシューマー」を生み出しました。プロシューマーは、単に必要に迫られて与えられたものを消費するのではなく、自らの感性や興味関心に合致する商品やサービスに能動的に関わっていきます。

消費者と事業者との関係性における変化 必要性でなく価値への共感→感性や感情への訴求 タッチポイントの多様化→タッチポイント間で一貫した世界観 能動的な情報の検索→売り込みでなく探しに来てもらう 能動的な情報の発信/共有→能動的な関わり合いの促進 必要なものを受動的に消費させる→一貫した世界観に共感してもらい能動的に関わってもらう

ここで、マーケティングのありようが根本的に変化しました。かつての広告産業に見られたような一方的なコミュニケーションではなく、顧客の共感を作り出し、顧客自ら発見し、関わり合い、発信してもらう、このような能動的な体験を促すことが求められるようになりました。(マーケティング理論の大家コトラーは、このような変化を指して「マーケティング3.0」と呼びました。)

このような背景に、インタラクティブなメディアにおけるUIやインタラクションの具体的なデザインが合流し、今日のUXデザインが形作られてきました。ゆえに、今日の情報/メディアの環境の下では、農業を含むあらゆる事業の創造と経営の中のマーケティングの手法として、UXデザインの有効性があるのだと思います。

みなさんが精魂込めて育てた作物・畜産物 それは、どこの誰を、どう幸せにするんだろう 最良の製品だけでなく、最良の体験で事業を成功させよう