VRとAIがもたらす次世代UI


Ginger bread man

(本記事は、UX Tokyo主催UX Advent Calendar 2015向けに書きました。)

2015年、タッチの限界

2007年にアップルがiPhoneに搭載したマルチタッチは、私たちがコンピューターと対話する劇的に新しい方法をもたらしました。特に携帯電話においては、それまでの物理キーを駆逐し、最もよく使われるUIとなりました。タッチは携帯電話にとどまらず、この8年の間にタブレット、さらにはPCにまで取り入れられてきました。

ですが、これらのタッチUIのイノベーションは、この短い期間でもやり尽くされた感があります。スマホの進化は大画面化や性能の漸進的な向上にとどまり、タッチを普及させた立役者であるアップルも大きな変化は起こせていません。今年のiPhone 6sシリーズの3Dタッチは新たなUIを提案するものですが、今のところ元のマルチタッチのようにパラダイムを変えるほどの変化にはなっていません。

タッチがUIとして優れているのは、手で触れるという行為が人間にとって直感的なものだからです。しかしその触れることが、そのままUIとしての限界にもなっています。例えばApple Watchに代表されるウェアラブル機器にもタッチで操作するものが多くありますが、小さい画面ではやはり無理があります。一方でSurface ProやiPad Proのような12インチクラスの画面を備えた「生産的なタブレット」も新たなトレンドになってきましたが、大きすぎるとまた手にあまるため、それらの機器ではスタイラスペンの使用が前提になっています。さらに、そうしたサイズになればもはや携帯機器としていつでもどこでも使うものではなくなってきます。

まとめると、タッチUIは4-10インチくらいの画面を備えた機器がスイートスポットであり、表示面積のあまりないウェアラブル機器や、より大きな表示を扱うのには向いていない。結果、デジタル機器が今のスマホやタブレットを超えて多様な生活シーンに入っていくためには、タッチではないUIを開拓する必要があるということです。

2015年という年は、タッチUIの限界が見えると同時に、その先にあるUIがかいま見える年でもありました。次世代のUIをもたらすと考えられるのは、二つの技術。それはVRとAIです。

VR/ARによって環境のすべてが情報になる

2015年のITの世界で最大の話題となった一つはVRでした。VRのブームのきっかけを作ったOculusが矢継ぎ早にプロトタイプを公開し、来年初頭には初の一般向けモデルを発売します。Oculusと連携しているサムスンは、本家に先駆けてGalaxy向けのGear VRヘッドセットを一般向けに発売しました(日本でも間もなく発売)。ゲーム業界からの参入もあり、特にソニーもPlayStation VRで家庭用VRゲームに参入します。

今ここではない環境に完全に没入することのできるVRの主なアプリケーションは、特に当初はゲームが中心になると考えられます。アトモスでも、VRゲームを試作してみました。

さらに、株式会社スポーツITソリューション様と、Kinectを組み合わせてVR空間の中でキックボクシングのエクササイズができるコンテンツの開発を行いました。(下の動画はChromeだと360度パノラマとして再生することができます。)

このように完全に没入するVRに対して、周りの視界を遮らずに、その中に仮想のオブジェクトを重ね合わせて表示するARも、今年は大きな注目を集めました。その代表例が、MicrosoftのHoloLensです。

アトモスでは、昨年から引き続きEarth Literacy Program様と、地球儀にARで情報をオーバーレイする地球メガネの開発を進め、仙台で開催された国連防災世界会議への出展などを行いました。

またちょっと特殊な形ではありますが、アスラテック株式会社様のV-Sidoを遠隔地のWebアプリからリアルタイム制御することのできる開発プラットフォーム「Web Controller for V-Sido CONNECT」、およびその上で動くAR的なUIを開発しました。

これまで見てきたように、VR/ARの表現によって、タッチパネルという物理的な板面に縛られず、環境のすべてや、その中の地球儀やロボットなどの物とインタラクトするUIが実現できるということがわかります。

アトモスでは、引き続きVR/ARを用いたUIのイノベーションを推進しています。

コンピューターはAIへと進化する

2015年さらに大きな注目を集め、ひょっとすると長期的にはVR以上の革新をもたらすと期待されるのが、AI技術です。

特にUIの観点からは、AI技術を用いた対話型エージェントが広く利用されるようになってきました。Apple Watchのようなウェアラブル機器、アプリに対応した新型Apple TVなどにおいて、AppleはSiriをUIとして積極的に用いています。IBMは2013年にクイズ番組で人間のチャンピオンを破って大きな話題を呼んだWatsonを外部開発者が利用できる開発環境を整え、コールセンターなどを中心に採用が進んでいます。また今年はPepperが発売され、店頭などで接客をする姿を普通に目にするようになりました。

AIは対話型エージェントという形に縛られず、ITサービスに大きなインパクトをもたらしつつあります。その一例が、今年GoogleがリリースしたGoogle Photoです。写真に写っている人や物をあまりにも正確に認識するので、便利であると同時にちょっと怖くなります。GoogleはまたTensol FlowやVision APIなど、そうした機械学習のライブラリをオープンソース化して公開しています。

Appleはともかく、IBMやGoogle、日本のPFNなどは、AI技術の積極的な開発に取り組むと同時に、その成果を積極的に外部開発者に公開し、自社のエコシステムに取り込もうと競争を繰り広げています。これはまずAndroidなどのモバイルOSのように、より多くのアプリ/サービス開発者の支持を得た方が優位に立つ、という事情があります。加えて、機械学習を活用するためには一般に大規模な学習データが必要です。テクノロジー企業は必ずしも特定領域の良質なデータを持っているわけではないので、そうしたデータを得るためにもライブラリは積極的に提供していくという流れになっています。

ではアプリやサービスの開発者は、今後この流れにどのように向き合えばよいのでしょうか。まず、ウェアラブルやIoT向けのUIの中では対話型エージェントの利用は広まると考えられるため、対話のインタラクションデザインに取り組む機会が増えるでしょう。さらに、より深くサービス設計に入っていく場合、機械学習ライブラリについての知見を得て、どのようなデータを入力すればどのような分析や分類や応答ができるか、といった知見が求められるようになっていきます。

AIはこのように、デジタルサービスのデザイン、ひいては社会全体に劇的な影響を中長期的に及ぼしていくことになります。実は今年、あるプロジェクトのために、かなり長期間にわたるAIのリサーチを行ってきました。来年の初めに、このプロジェクトについて公開することになりますので、乞うご期待。

2016年へ向けて

人々の役にたつサービスをデザインできるかどうかというデザイナーの役割は、いつの時代も変わることはありません。私たちテクノロジー領域のデザイナーは常に新しいテクノロジーを学び、それを誰よりも使いこなし、正しいカタチにデザインする能力が求められます。2016年は、かつてなく私たちデザイナーに大きなチャレンジが課せられる年となりそうです。

Happy holidays!